ハラヘリヘリハラ

腹が減った。


こういう時に僕がやる行動は決まっていて。すぅっと息を吸い込み声を張り上げる。「メイド!誰かいないのか?!マリー?メアリー?エリザベス!!」 返事は無かった、何故だ?暇を出した覚えはないし外出許可を与えた記録もない。誰もいない理由が見当たらず、僕は苦悩した。雇った記憶すら無いのは愛嬌なので理由にはならないし…これは一体どうした事だろう?


いないものは仕方が無い。考えを切り替えて長い廊下を歩く、上に立つ者として後ろを振り向くような行為は絶対に禁物だ。これは君主論の初歩である。読んだ事はないが、そんな気がする。初歩な気がする。応用編くらいにはなってるかもしれない。僕はほんと凄い。えへへ。とにかく前を向きキッチンに向かう。


到着した。所要時間は実に2秒程。これは家が狭いという事ではなく僕の卓越した運動神経の証明、及び神速を誇る愛馬シルバーチャリオッツ号のコンビネーションプレイが見事に融合した奇跡に他ならない。廊下とか2キロくらいあるからね。


炊飯器、もとい五右衛門風呂を探す。僕の家では凄すぎて五右衛門風呂でご飯を炊く、これは凄い、自分で言ってて少し意味が分からないがなんか凄いような気がします。とにかく五右衛門風呂を探す、無かった。残念。しかし僕は迷わない、迷わず妥協してメイド用の炊飯器のフタを空けてみる。何も入っていない。これはえらいこっちゃでほんま。


えらいこっちゃえらいこっちゃと、貴族の嗜み『えらいこっちゃ音頭』を舞いながらパンやらその他諸々を探索するものの何一つとして無い。ビタ一文ない。存在が確認されない。命の灯火が消えていく。パンが無ければケーキを食べればいいじゃない?的なマリーアントワ思考が頭を駆け巡るが、今この状態でそんな事を言われたら「いや、食べる物が無いって意味ですよ」 とか真顔で答えてしまうかもしれない。だって明らかにアントワ馬鹿じゃん。バカネットマリモン。モンスターボールをぶつけたら捕獲できそう。


本当に何も無かったので僕は新しい戦法に出る為、自分の部屋に戻った。椅子に腰掛け目を瞑る。新戦略の名前は狸寝入り、寝た振りすれば空腹が収まるかもしれないって寸法です。まあ当然おさまりませんでした。ああ神様、この苦難は私には耐え切れません、どうかどうかお救いください!と、祈りながら机の上のマカダミアナッツを食べたら、お腹いっぱいになりました。奇跡だ!神様ありがとう!